私立恵比寿中学に松野莉奈って子がいます
出席番号は9番 イメージカラーは青
数多いるアイドルの中で特別好きというわけではないが、彼女を見るたびその美しさにいつもドキッとさせられる
もしかしたら未だに直視できたことがないかも知れない
松野莉奈は表情を見ているだけで面白い
楽しい時は心の底からニコニコ笑うし、嫌なことがあるとステージの上でも不機嫌そうな顔を見せる
哀しいことがあれば泣き、嬉しいことがあればまた泣く
アイドルはいつも笑っていなきゃいけない、ファンの前では笑顔を作らないといけないという誰が考えたのか分からないルールを真っ向からぶち壊してくれる
彼女を見ていると人間を感じる
だから私は好きだ
松野莉奈は歌もさほど上手くない
むしろアイドルの中では間違いなく下手な部類に入る
地声の低さも相まって、3~4年前の歌声はまるでお経を聞かされているようだった
ソロ曲の初披露を聴いた時、あまりの音痴っぷりに思わず笑ってしまった
それでも最近は歌も格段と上手くなった
音を外すことはめっきり少なくなったし、歌い姿に余裕すら感じられるようになった
よく日本のアイドル論として「成長」や「物語」がキーワードとして語られることがあるが、彼女を見ているとなるほどと思う
めきめき上達していく彼女の姿を見ているのは確かに面白い、アイドルって面白い
この成長物語の続きがどうなるのか楽しみでしょうがない
今年も4月からエビ中の全国ツアーが始まる
カホリコが加入して8人になったエビ中をようやく受け入れられるようになってきていたが、残念ながら今回のツアーは8人じゃない、6人だ
年始に廣田あいかが抜けた
そして1年前の今日、松野莉奈が亡くなった
2017年2月8日
その日は朝からなんだか仕事をする気が起きず、遠くのお客さんまでわざわざ電車を乗り継いで見積書を出しに行った
30秒で予定を終え、既にお昼になっていたのでフラッと近くのラーメン屋に立ち寄ることにした
見知らぬ土地ではあるが、私くらいのレベルになると店構えを見ただけで当たりかどうかを瞬時に判別することができるので問題ない
メニューの左上にある一番スタンダードなラーメンを即座に注文 博多っ子なので麺の硬さはもちろんかためで
注文後、いつものようにスマホを取り出してニュースサイトを開く
意味が分からなかった
信じられないというより、何が書いてあるか理解できなかった
日本語は世界一難しい言語って聞いたことあるけど、こういうことかぁと
理解できなかったけど、とりあえずラーメンを待たずにお会計を済ませることにした
「何か失礼がありましたか?」と店員に怪訝な顔をされてお金を受け取ってくれなかったが、レジのカルトンにお金を一方的に置いて店を出た
ちなみにカルトンとはお金を置く長方形のトレイのこと ももクロのラジオで知った
アイドルは何でも教えてくれる
そのまま会社に戻ることにした
帰りの駅のホームで「あと一歩踏み出したら自分も死ぬのかなぁ」なんて考えていたけど、幸いまだ理解が追いついていなかったので思いとどまった
帰りの電車の中、ずっと考えた
「松野莉奈を検査入院させないと事務所を爆破する」
どうして脅迫文を送っておかなかったのかと本気で後悔した
でもその考えが無意味なことも、何かに責任を負わせたいだけだということも、可哀想な自分に酔ってることも、悲劇のヒロインを演じたいだけだということも全部理解っていた
ネットに溢れる追悼ポエムに辟易しながらも、私も同じ穴の狢であることは誰よりも理解っていた
人間ってほんとキモい
今もまた
私立恵比寿中学に「全力ランナー」という歌がある
作詞作曲はお馴染み、杉山勝彦
松野莉奈は「素敵な歌を貰った!」と、歌詞を持ち帰って両親に嬉しそうに報告したらしい
走らなきゃ息がとまりそう
君が好きで仕方ないの
ドキドキが作る檻の中
閉じ込められたら嫌よ
走らなきゃ息がとまりそう
ローファー脱いで加速して
君への気持ちを止められない
駆けてく 全力ランナー